満州を舞台にした斬新なアヘン・クライム・サスペンス『満州アヘンスクワッド』。
今回は、第二次世界大戦中の満州国を舞台にした斬新すぎるアヘン・クライム・サスペンス『満州アヘンスクワッド』について語っていきます。
世界観、登場人物の解説やみどころポイントの解説考察をし、この記事を読んでいただいた方がこれから『満州アヘンスクワッド』を読むときちょっとでも面白くなれば幸いです。
Contents
『満州アヘンスクワッド』あらすじ。満州を舞台に繰り広げられるアヘン・クライム・サスペンス。
原作・作画 | 門馬司、鹿子 |
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巻数 | 既刊9巻(2022年06月時点) |
出版社 | 講談社 |
Wikipedia | Wikipedia |
満州アヘンスクワッド あらすじ
文章昭和12年。大日本帝国関東軍として満州国に移住した日方勇。心優しい彼は砲撃に巻き込まれた中国人の少年を助けようとする。
しかし、少年は日本人に恨みを持っており、隠し持っていた銃で勇を撃つ。幸い弾は頭からは逸れたことで右目は失明してしまったものの、命に別状はなかった。
この事件以降、勇は不幸が続く。戦いの前線から下がり当時不遇の扱いを受けることもあった開拓軍に転属させられ、母親はペストに感染。
妹は不可抗力とはいえ殺人を犯してしまう。しかし、勇は自分のとある才能があることに気が付き、幸か不幸か自分の運命と満州の運命を変えていく。
『満州アヘンスクワッド』はクライム・サスペンスと呼ばれるジャンルの、いわゆる犯罪行為を描いた漫画ですので、読む際は注意が必要です。
主人公は同情できる事情はあれど、犯罪行為に手を染めており、作中にはそれなりに残虐なシーンもあります。
しかし、満州国の歴史背景や関東軍の歴史を上手くフィクションに落とし込んでいて、とても面白いです。
多少のグロ表現には耐えられるという方は、ぜひ読んでみてほしい作品です。
主人公の勇は、右目の視力を失った時以来、嗅覚が敏感になりました。そのことから阿片(アヘン)の調合に神がかり的な才能を見せます。
精密機器や最新の調合器具を容易に準備できない当時、勇の嗅覚と調合センスがかみ合ったことでアヘンを超える『真阿片(シンアヘン)』が生まれます。
この特別なアヘンを使って主人公は自分の運命と満州国の運命を変えていきます。
『満州アヘンスクワッド』主要登場人物。
日方勇
本作の主人公。母親がペストにかかったことでお金が必要になり、苦肉の策としてアヘン売買に手を出してしまいます。
しかし、お金が集まる前に母親は死んでしまいます。
絶望にくれた勇ですが、せめて残された妹と弟だけでも幸せに暮らさせてやりたいと思い、日本本土に戻って不自由なく暮らせる分だけのお金をアヘン売買で稼ぐことを誓います。
母親を助けるために大金を用意しようとしたり、自分よりも娘や弟を第一に考えたりと、心優しくまっすぐな人物だとわかります。
そもそも、右目を失ってしまった理由も人を助けようとしたことが原因です。
主人公の男女問わず人を惹きつける魅力が、ちゃんと行動やセリフからわかります。昨今のなぜかモテモテな主人公や、なぜかカリスマがあるキャラクターには見習ってほしいですね。
麗華(リーファ)
本作のヒロインポジションのキャラクターです。中国の裏組織『青幇』の首領でアヘン売買の拠点に勇が訪れたときに出会います。
勇が生み出す、通常とは段違いに純度が高く効果が強いアヘンを『真阿片』と名付けます。
『真阿片』を有効に活用すれば、満州の裏稼業を牛耳れると確信し、勇と手を組んで『真阿片』の密造、阿片販売網の拡大を画策します。
勇に対しては、恋心とまではいわないものの、それなりに好意は持っている様子。
長谷川圭人
関東軍憲兵伍長。イケメンメガネ男子。物腰柔らかく優しそうな雰囲気をまとっていますが、拷問が趣味というギャップがあります。
関東軍は阿片売買の収入を得たこともあり、勇とリーファが製造する『真阿片』に市場を荒らされたことで敵対します。
単純に阿片を取り締まる憲兵が敵ではなく、阿片独占をもくろむ汚職まみれの憲兵が敵役ということで、悪対悪という構図はまさに満州版アウトレイジといった感じです。
個人的に、犯罪者と汚職警官が戦う映画や作品が大好きなので変に属性盛りのキャラクターを追加せず、お話が進んでいってほしいです。
『満州アヘンスクワッド』主要組織
日方家
母、勇、妹の日方セツ、弟の日方 三郎の四人家族。家族の絆は固く、家族全員が互いに愛し合っています。
父親が日露戦争で戦死しており、母親は勇が軍隊から徴兵されたときは、兵士相手に掴みかかって抵抗しました。
母親は一巻の時点でぺストに感染、死亡してしまった。まだ幼い妹と弟を一人で守っていかなければならないという重圧がむしろ勇を強くしているのかもしれません。
関東軍・満蒙開拓義勇軍
史実ではソ連侵攻で壊滅するまで、満州を実質的に統治していた国とされています。
関東軍には、長谷川圭人が所属しており、勇たちを追い詰めていくことになります。
『満州アヘンスクワッド』がソ連侵攻まで描くかはわかりませんが、物語が史実通り進んでいくかもみどころの一つです。
関東軍憲兵には長谷川を“先生”と呼び、進行するグループも存在し、かなり危険な人物が多いようにも見えます。
満蒙開拓義勇軍には、前線で戦えなくなった兵たちがいます。なかでも陣内茂という人物は、勇が阿片にかかわるきっかけになった人物です。
傷病軍人でありながら、陰では阿片の原料になる芥子を栽培していました。
勇たち家族にも親切だったものの、勇がふとしたきっかけに、芥子栽培に気が付いてしまい敵対してしまいます。
茂が勇を襲おうとしたときセツが助けに入り、茂を殺します。
満州鉄道
勇とリーファにとって中国各地に『真阿片』を輸送する手段として必要でした。
しかし、満州鉄道、略して満鉄には荷物検査があり、阿片を密輸するには厳しい荷物検査があり、それをかいくぐらないといけません。
現実的に見ても満鉄を使った阿片密輸には、大きなリスクがあります。
この現状を打破するためリーファは風見に色仕掛けで迫り見事、真阿片中毒者にして傀儡にすることに成功します。
満州映画協会
輸送路の次に勇たちが目を付けたのが満州映画協会です。
実際の戦争でも広報手段は戦略的な価値が高く、このあたりのシーンは読んでいてかなりリアルで面白いと感じました。
実際に、満州映画協会は日本人にとって中国人とは都合の良い女であると印象が付くような映画を公開していたりと、大衆娯楽としての力は大きいようです。
例によって有力者達は、リーファのシャブ漬け戦略によって傀儡になりまが、このリアルと漫画的演出のバランスがちょうどよく、ヘビーな内容の漫画にもかかわらず『満州アヘンスクワッド』は小気味良く読み進めることができます。
白系露人事務局
アレクセイ・ロジェエフスキーを皇帝(ツァーリ)と崇めるロシアンマフィア。
哈爾濱(ハルビン市)を裏で牛耳っており、数多くの貿易会社を運営しています。
“貿易”にかかわっている時点で勇たちとの関わりは避けられず、ソ連との関係に直接かかわる重大なシーンが出てくるのもみどころです。
『満州アヘンスクワッド』各巻ネタバレみどころポイント
1巻の見どころ
傷病軍人なのに上官に虐げられる描写や、母親のペスト感染の描写はみどころです。
当時の日本人としての辛さ、目を覆い隠したくなる部分が漫画としていい塩梅で描かれています。
また、物語としてもちょうどいいところで一区切りつくので、一巻だけでもぜひ読んでみるのはいかがでしょうか。
クライム漫画なので、どうしても好き嫌いが出てしまうとは思います。ただ、筆者最初は絵柄で敬遠していたものの、まんが王国の一巻無料試し読みでハマりました。
2巻の見どころ
アヘン生産場を移す、販売網の拡大、売人の確保。やらなければいけないことだらけですが、漫画が面白いのはここから。主人公が目標に向かって行く姿は犯罪とはいえ魅力的に見えてしまいます。
さらに、青幇が仕向けてきた殺し屋まで参戦。物語は激しくなっていきます。
3巻の見どころ
真阿片の新しい販売拠点を確保した勇とリーファ。さらなる事業拡大のための売人も仲間に加わります。
ここから満州映画協会が物語にかかわってきます。勇は満州のヒロインといわれる美人女優ともいい感じになりますが、勇の硬派な対応はみどころです。
『満州アヘンスクワッド』の主人公、勇の魅力を再確認できる巻です。
ただ、ここからだんだんとヒーロー漫画感、ラブコメ要素がる、箸休め的なお話が多いです。
最初から最後まで硬派なクライムサスペンスを期待していた方には、ちょっと残念に感じたかもしれません。
4巻の見どころ
ついにアヘン王と呼ばれる男が参戦し、さらにソ連ともつながる組織が現れ始めます。
3巻で少し箸休めがあったぶん、なかなか濃い内容になっています。ここからどう最終巻のオチをどうもっていくのかわからなくなってきます。
5巻の見どころ
ここからかっこいいキャラクター、魅力的キャラクターが多く登場します。
ただロシアンマフィアが参戦したことで物語が単調なマフィアどうしの抗争で終わることが多くなってきています。
作者の「史実をこう解釈した。」という意思を感じるよりも、ここまで史実から離れて大丈夫なのか?物語の収拾がつかなくなるのでは?という不安が大きくなってしまいます。
それでも、絵とキャラクターのカッコよさが有り余っているので評価は人に分かれそうではあります。
6巻の見どころ
中国マフィアとロシアンマフィアの戦いが激化していき、ハルビン市を誰が支配するのか?というところまで来ました。
物語はどんどん盛り上がっていきます。がやはりここまで史実から離れて大丈夫なのか?物語の収拾がつかなくなるのでは?という不安が付きまといます。
ただ、抗争シーンやヒロピンはやはり燃えるものがあり、7巻からの展開が楽しみになる巻でした。
7巻の見どころ
青幇とロシアンマフィアの抗争がついにピークに達します。落ち着いていたハードな描写はまた勢いを取り戻してきており、面白くなってきました。
しかし、残念なことに馮英九に撃たれたリーファは戦線を離脱することになります。
露人事務局への猛攻撃、キリルとバータルの活躍、青幇とロシアンマフィアの最期、そして、吉林に拠点を移した勇、リーファのさらなる躍進がみどころです。
8巻の見どころ
哈爾濱の死闘がついに決着しキリルとの別れに思わず涙しそうになります。
そして一行は吉林で再開を果たしますが、そこには執念深い関東軍憲兵、長谷川の姿がありました。
勇をどこまでも追って来る長谷川。個人的には好きなキャラクターなので最終巻までは死なないでほしいところです。(いつか死ぬだろうなとは思ってる。)
9巻の見どころ
意外なことに、吉林でのビジネスはあっけないほどの大成功を納めます。勇たち一行はついに大金を手に入れますが、ここにきて長谷がの毒牙が迫ります。
長谷川はスパイを放ち、着々と裏で急襲の準備を進めていました。
勇と長谷川の因縁の対決に注目です。勇は憲兵や他の関東軍兵から馬鹿にされ虐げられていたころとは、心も体も立場も違います
そんな勇にとって長谷川とは、弱い自分を知る家族やリーファ以外の最期の人間なので。倒すことによって勇は更なる成長ができると思います。
『満州アヘンスクワッド』読者の評判や感想。史実との違いが…。
クライム漫画という特性上、どうしても賛否両論あります。
では、実際どんな評価が多いかというと、1巻は好評。3~5.6巻がちょい不評、7.8巻あたりで持ち直したといった印象です。
まず、関東軍や満州、阿片という目の付け所がいいです。
そのあたりを題材にした多くの映画や小説はあれど漫画はなかなかありませんでした。
ただ、その時代が好きな方々からすると、ちょっと時代考証がお粗末だったり阿片の効果が違うのも気になるようです。
筆者としても関東軍や各組織の漫画的な誇張表現が気になっていました。
ただ、史実に近づけたらそれはそれでいろんな意味で笑えない作品になってしまうのでしょうがないのかなと思います。
そしてブレイキング・バッドと比べた意見も多く見かけます。確かに似ています。
ただ、機能していない警察組織VSマフィア、マフィアVSマフィアの構図の作品は多くあり、需要もあるので似てしまうのはある程度仕方ないかなとも思いました。